中分子IT創薬研究推進体(MIDL)は、東京工業大学における独自の組織である「イノベーション研究推進体」の一つとして、平成29年9月に設置されました。

「イノベーション研究推進体」(2019年度より名称を「研究推進体」に変更)とは、本学における国際的研究拠点の形成基盤となるように、特定の研究課題の下、部局の組織を越えて各専任教員が個別に実施している革新的特定研究分野をグループ化し、全学的横断組織として戦略的展開を推進することを目的として設置される研究組織です。

我が国は創薬産業において世界に大きく遅れをとりつつあり、とりわけ近年の医薬品売上高の上位を占める高分子医薬品(抗体医薬品)の開発では、海外企業の後塵を拝する状況にあります。しかしながら、抗体医薬品には製造コストが高額であることや細胞内部に到達できないなどの問題もあり、より安価で抗体医薬に匹敵する薬効を示す中分子医薬品(ペプチド医薬品、核酸医薬品)への期待が高まっています。今日における創薬研究開発では、情報科学・IT技術が欠かせない状況ですが、中分子には従来の低分子とは異なる独自の物性があり、既存の支援システムは低分子化合物用に開発されてきたため、中分子創薬には適用できません。本推進体では、これらを解決する新たな中分子シミュレーション技術や設計手法を開拓し、計算と実験の研究者が密接に協力して、中分子創薬の開発現場における実証評価を進めています。また、本学が保持するペプチドや核酸に優れた合成技術に対して、情報技術の支援を行い、中分子創薬における実用化を目指します。

中分子創薬では、例えば細胞内のタンパク質間相互作用(PPI)の阻害が可能になるなど、従来の低分子創薬とは異なる標的分子を狙うことも可能になります。計算と実験の協働によるPPIの網羅的予測法や、未知の標的分子の実験的な同定技術の開発なども併せて行っています。